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歯科医院の計画と設計 - 医院建築6号 歯科医院総特集

ビル内診療所から住宅付診療所まで、手がけた15事例をもとに 受付・診療室・消毒準備コーナー・カウンセリングコーナー・技工室・院長室など、診療空間各部の設計手法:診療形態に応じた計画の立て方から細部設計まで、これまでの実績をもとにノウハウを集大成。(在庫なし)

 

歯科医院の計画と設計

デンタルはいま、歯科医師が毎年3,000人くらい国家試験に合格して増加し、開業予備軍は約15,000人に達するといわれ、医師過剰時代をむかえようとしている。 そのなかで医療革新とともに社会情勢や患者の意識変化がすすみ、長期的展望による将来への対応から、従来のやり方を転換して社会と連帯する発想で意識革命が始まっている。
これまで医院は歯科医療業界の機器メーカーを主体にしてつくられるケースが多かった。 そのため機能優先・機器重視の姿勢が強くあらわれていた。 患者サイドに立ったデザイン的な配慮や空間構成は弱く、医療施設特有の威圧感を患者に与えがちであった。
また、現在は競合への不安材料が誇張されて、建設費を安くあげることに話題が集中している。 そのために、イニシァルコストは低いが、中身は実質的には以前よりダウンした内容のうすい診療所がふえている。 もちろん、コストダウンは資金計画と医院の経営からも今後は絶対必要である。 ましてこれまでのような絢爛豪華な医院や、一過性の装飾デザインだけではなりたたなくなった。それだけに問題の本質を冷静に見つめる姿勢が大切である。
これからの歯科医院は清潔で明るく、動きやすいきめのこまやかな空間をつくり、語りかける建築で関心と好感を呼びおこさねばならない。そして、しっかりした診療技術をベースに、長期的展望をもった収支計画から診療所の規模を定める。 また、過剰な設備を排し、ローコストで機能と造形の両方を充実させた、質の高いトータルデザインがあたらしいコンセプトになる。
歯科医院の設計は、医療施設として内容にはいろいろとむつかしい要素がある。 そのうえ、住機能や商空間イメージからの発想も要求される。その設計に主体的な姿勢で取り組むには、まず医院の診療設備や機能と器材・薬品などの形状・位置・動きについてよく理解し把握をしなければならない。 質の高い空間は、スムースな動線処理と必要な機能が周到に配置され、すぐれた造形感覚で整合されてつくり出される。
歯科医院はオーナー自身が直接に診療を行なう場であり、その診療は、多くの機器をつかって高度な技術と熟練を要するハンドワークである。 長年にわたってつちかわれたデンチストの方式や手順・ボジションは、簡単に変えられない。 多人数の患者を診療するデンチストの場合は、能率性が重視される。 反対に時間をかけて少数を診療するタイプには、密度の濃い落ち着いた診療空間が求められる。 それぞれの診療方針や体型にあった、システムと装置空間をつくり出さねばならない。
このような考え方をもとにして、私は各地で多くの歯科医院をつくりつづけている。 大都市・周辺都市・地方都市と、それぞれ直面する状況は異なる。 その地域特性や周辺環境をよく把握した基礎資料をもとに、デンチストの診療方針や個性が反映された適正な規模を定め、予算計画をたてていく。 そして、多角的な視点からイメージして基本構想をまとめる。 それには、仕事の回数をかさねて得たデータが貴重なノウハウになってくる。 そして、マンツーマンで、根気よく多くの対話をかさねることからヒントがうまれ、新しいアイデアが生まれる。 また、実例による詳細の検討を行なうことからも、イメージは具体的になり、個性的な診療空間が実現していく。 私は、歯科医院をよく理解した建築家の立場で、構想から設計・監理をつうじて開院までを一貫したコンセプトでのぞんでいる。 デンタルをたんなる医療施設としてとらえるのではなく、歯科特有の美意識をひき出しメッセージをこめて有機的に表現したい。 そして、光と風のさわやかな自然をテーマに、感性豊かなあたらしいデンタルイメージを求めている。     
(松本直高)

編集=建築思潮研究所
発行=建築資料研究社(03-3986-3230)(在庫なし)

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