■街をささえる建築の創造 (抜粋)
都市は経済活動と住環境のバランスが大切である. 経済活動が低い次元の商業主義と結びつくと次第に効率に向って動き出し,コスト対効果比の考え方が優先し,ゆとりといったものが段々と失われて,いつの間にか魅力を失っている面がある.
都市に美しく存在し機能する建築のイメージは多く語られてきたが,ややもすれば,モニュメンタルな建築や大建築に目を向けがちであった.しかし,それはほんの一握りの存在でしかない.街は数多くの小さな建築で機能し支えられていて,人間中心のコンセプトは都市に変化に富んだ表情をつくりだす. それゆえ,街をささえる建築とかかわって都市を美しく活性化させることが今日的課題であると私は認識している.
私が手がけた建築の多くは,比較的小規模なもので,住機能を併せもつこともある. それらは全体としてぎりぎりの機能で構成されていてゆとりが少ない. しかし,そのような小さな高密度な空間にも個性的な解決方法があるはずであり,豊かな空間を創り出すことに強い意志をそそいできた. 私が求める建築というのは技術的な問題や法規制などの必要条件をみたすことは当然のことであり,それを超えた十二分の内容をもつ建築をめざすことである. それは建築の大小ではなく,どのような問題意識をもっているかが重要である. ひとに十人十色の個性があるように,建築も固有の形態をもつ. 現代は個人的風潮が強く形態は衝動的になる傾向があるが,自由な形態と必然性のない形態は峻別されねばならない. 私は表面的に饒舌な建築より内面からにじみ出る美しさをもつ寡黙な建築を大切にする.他の雑多な建築群のなかにあっても埋没することなくそのよさを主張する際立った存在, それは,一本の線がひきだす感覚の世界を凝視し,インスピレーションは潜在意識と結びついて明確になり,他のイメージと対決してなおも残る強さから生まれてくる.
私は新しい発想と視点で,個の建築の奥にある本質をとりだして有機的に表現する.新しいコンセプトの建築は人々の関心を呼び起こし,美的感動をあたえ,街を活性化する.
(松本直高) |